アスベスト関連法律

 アスベストに関する法律は、「労働安全衛生法」「石綿障害予防規則」「大気汚染防止法」「建築基準法」「廃棄物処理法」「建設リサイクル」などがあり、これらの法律に基づいて対応しなければなりません。

 日本国内でのアスベストによる暴露事例によって、関係法律の改正や規制の強化が行われています。

 


アスベスト関連法律-目次-

1労働安全衛生法

2石綿障害予防規則

3大気汚染防止法

4建築基準法

5廃棄物処理法

6建設リサイクル法

7アスベスト含有建材のレベル別と各関係法令について

8主なアスベスト暴露事例・法改正について



労働安全衛生法

 職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。(第1条)

 特にアスベスト(石綿)に関係する事項には、アスベスト含有製品の製造等の禁止、アスベスト含有の吹付け材を除去する場合の届出義務などが定められています。

概要

  • 「アスベスト及びアスベストをその重量の0.1%を超えて含有する物」の製造、輸入、使用を禁止(労働安全衛生法第9条)
  • 耐火建築物等における吹き付け材の除去作業時には、工事計画届を作業開始の14日前までに、労働基準監督署長へ提出しなければならない。(労働安全衛生法第88条)

 


石綿障害予防規則

 平成17年に石綿障害予防規則が制定され、建築物の解体等の作業における石綿ばく露対策等について規定されました。

 直近では、平成26年に石綿障害予防規則の改正により、吹付けアスベストに加えてアスベスト含有の保温材、断熱材、耐火被覆材についても規制を強化しました。合わせて、それらの建材が、損傷や劣化などでアスベスト粉じんの飛散のおそれがある場合には除去等の対応が必要となります。

 また、第10条のばく露の可能性がある建築物は措置を講じる必要があることから、建物所有者はアスベストが建築物のどの位置にあり、劣化状況、飛散状況を把握する必要があります。

概要

  • 建築物の解体等の工事における、アスベスト含有の有無の事前調査(石綿則第3条)
  • 建築物の天井や壁、柱に施工された吹付けアスベスト、保温材等が損傷や劣化によってアスベスト粉じんが飛散し、労働者がばく露するおそれが場合には、アスベストの除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じなけれならない。(石綿則第10条)
  • アスベストの分類は吹き付けられた石綿、保温材・耐火被覆材等が届出が必要な建材としています。

大気汚染防止法

 大気汚染防止法とは、大気汚染に関して、国民の健康保護、生活環境の保全などを目的にしています。

 直近では、平成26年に大気汚染防止法の改正により、届出の義務者を発注者等に変更、受注者に対し特定建築材料の使用の有無の調査、調査結果の発注者への説明、調査結果の掲示を義務付け、都道府県知事等による立入検査等の対象の拡大などがなされています。

概要

  • 特定建築材料(レベル1,レベル2)が使用されている建築物等の解体、改造、補修作業を行う際には、事前に都道府県等に届出を行い、石綿飛散防止対策(作業基準の遵守)が義務づけられます。
  • 特定建築材料の使用の有無を調査することなどが義務づけられています。(事前調査)
  • 建築物に施工されている特定建築材料の除去工事の対策規制
  • 除去工事時の周辺住民の保護を目的し、除去工事の発注者、事業者への規制がかかる。

 

  ※特定建築材料とは、特定建築材料とは、吹付け材、断熱材、保温材、耐火被覆材のうち、石綿を意図的に含有させたもの又は石綿が質量の0.1%を超えて含まれているものです。


建築基準法

  • 平成18年の建築基準法の改正により、アスベストの使用が規制され、平成18年10月1日以降の着工の建築物に適用されます。 

概要

建築材料に吹付けアスベスト等の使用を禁止され、規制対象は以下の吹付け材2種類となります。

  • 吹付けアスベスト
  • アスベスト含有率が0.1%を超える吹付けロックウール

増改築時のアスベスト除去の義務付け

 建築物の大規模な増改築時には吹付け石綿及び石綿含有吹付けロックウールの除去が義務付けられ、また、石綿の飛散のおそれがある場合には、除去等の勧告・命令ができることが定められています。

  • 増改築時には、原則として石綿の除去の義務
  • 増改築部分の床面積が増改築前の床面積の1/2を超えない増改築時には、増改築部分以外の部分について、封じ込めや囲い込みの措置を許容する。
  •  大規模修繕・模様替時には、大規模修繕・模様替部分以外の部分について、封じ込めや囲い込みの措置を許容する。

廃棄物処理法

産業廃棄物、および特別管理産業廃棄物に分類し、これらの分別、保管、収集、運搬、処分を適正に行うために必要な処理基準などが定められています。

 

アスベスト含有廃棄物の区分

  • 特別管理産業廃棄物(廃石綿等):レベル1(吹付け石綿等)・レベル2(保温材等)
  • 廃石綿以外の石綿含有産業廃棄物:レベル3(成形板等)

建設リサイクル法

他の建築廃棄物の再資源化を妨げないように、アスベスト含有建築材料は、原則として他の建築建材に先がけて解体等を行い、分別しておくことが定められています。

  • 建築物の解体等における分別解体及び再資源化の義務付け
  • 一定規模以上の解体工事時には、届出が必要

アスベスト含有建材・レベル別と関連法律について

 アスベスト含有建材のレベル別によって、規制となる関係法令が異なります。

アスベスト建材種類 建築基準法

労働安全衛生法

(石綿則)

大気汚染防止法防止 産業廃棄物処理法
1

吹付け石綿

石綿含有ロックウール吹付け

規制

対象

規制対象

規制対象

規制対象

特別管理産産業廃棄物

(廃石綿等)

 

 

 

バーミキュライト(ひる石)

パーライト吹付け

2 保温材、断熱材、耐火被覆材
3

 

成形板等

 

 -

規制対象

石綿含有産業廃棄物


主なアスベスト暴露事例・法改正について

1986年 ミッドウェーアスベスト廃棄物事件

 1986年10月、米国軍横須賀基地に停泊していた空母ミッドウェーが、大規模な補修工事の際に発生したはアスベスト廃棄物を、横須賀市内の路上に廃棄し事件になった。この事件をきっかけに一般の住民に広く知られるようになった。

1987年 学校アスベスト

 空母ミッドウェーアスベスト問題をきっかけに、全国の学校関連施設の吹付け材アスベスト問題が続々と報道された。

 全国の教育委員会に吹付けアスベストの調査通知をでしたが、当時の調査は不完全であり、同時に除去工事が一斉に行われ、各地でずさんな除去工事となった。

1995年 阪神淡路大震災でのアスベスト飛散

 都市直下型地震によって、数多くの建物が倒壊し、震災被災地では倒壊建物の撤去作業中にアスベストが存在し、高濃度のアスベスト粉じんの発生が観測された。震災の復興作業によるアスベスト粉じん暴露が原因と考えられる中皮腫発症者がおり、今後も被害者が出てくる可能性が考えられる。

1999年 東京都文京区 区立さしがや保育園のアスベストばく露

 当時、保育園の改修工事の際に、壁の裏側や柱、天井などに施工されていた吹付けアスベストが、粉じん対策が取られずに改修工事が行われ、工事時期に保育されていた園児108人がアスベストばく露する事件が起きた。

 この事件では、文京区が検討委員会を設置し工事が行われた期間や園児のばく露量を推定し、リスク評価を行ない、2003年に報告書を答申した。この報告書はその後の国のアスベスト対策に大きな影響を与えた。

2005年 尼崎市クボタ神崎工場住民被害(クボタショック)

2005年6月に、尼崎市旧クボタ神崎工場周辺で、職業ばく露歴が見られない中皮腫患者が複数いることが報道された。このクボタショックは、日本国内のアスベスト政策を大きく転換せざる得なくなり、石綿障害予防規則の改正や大気汚染防止法の改正に大きな影響を与えた。

2005年 私鉄駅高架下の文具店長の建物ばく露

 壁に吹付けられたアスベストの店舗によって、長年勤務していた男性ががんの一種である中皮腫によって死亡した。 

 男性は1969年から2003年の間、8時から21時まで文具店で勤務していた。文具店は1階が店舗で2階が倉庫で、2階あわせた面積は約200平方メートル前後であり、倉庫の壁に吹き付けアスベスト(クロシドライト)が施工されていた。

 建築物内での勤務が原因とみられる中皮腫の発症が確認されたの、国内では初めであった。

2006年 労働安全衛生法、石綿障害予防規則、大気汚染防止法の改正

  • 労働安全衛生法:石綿0.1重量%超の製品の全面禁止(一部猶予措置あり)
  • 石綿障害予防規則:規制対象を石綿0.1重量%超に拡大
  •         :封じ込め、囲 い込み作業に対する規制の強化等
  • 大気汚染防止法:法対象の建築物に加え工作物も規制対象となる

2008年 石綿障害予防規則等の一部を改正

・事前調査の結果の掲示

・隔離の措置を講ずべき作業範囲の拡大、隔離の措置等

・船舶の解体等の作業に係る措置(施行期日 2009.7.1)

※2008年年2月6日付けの厚生労働省から通達により、アスベストの分析対象物質が「3物質」から「6物質」になり、分析調査の徹底が図られた。

2008年 分析対象が6物質になり、アスベストが次々と発覚

 全国の国公私立学校や文化会館、保育園などの施設で、トレモライトなどの3物質が使用された。同年には、吹付けアスベスト中にトレモライトが含有されている事例もあり、全国的に再調査が実施された。

 

2010年 再生砕石アスベスト混入問題

和歌山県やさいたま県で再生砕石からアスベストが混入されていることが大きく報道された。再生砕石は解体等により発生した廃棄物が建設リサイクル法に基づき再資源化されたものであるが、アスベストの有無を把握せず再資源化されたことが原因と考えられる。当社ではアスベスト調査時に敷地内の再生砕石を必ず確認するようにしていますが、現在でもアスベスト片が落ちている事例が見受けられます。

2011年3月11日 東日本大震災のアスベスト

 東日本大震災では、津波による被害が大きく、多くの建物が倒壊した。当時は放射能被害が大きく取り上げられたが、建物の倒壊によって石綿含有建材の露出や復興時の解体工事時のアスベストが飛散し、作業員等の石綿ばく露も問題となっていた。また、アスベストレベル3建材による飛散事例も報告されるなど、現在すすめられているアスベスト対策の元となる事例が多く見受けられた。

2012年 労働安全衛生法施行令等の一部を改正

石綿0.1重量%超の製品の禁止の猶予措置を撤廃

2014年 石綿障害予防規則レベル2建材の劣化による規制

 2014年の石綿障害予防規則の改正では、レベル2建材が劣化状況にあるときにアスベストが飛散し暴露することがあるため規制が追加された。

 今までレベル1建材である吹付石綿、ロックウール吹付材だけ確認されてきたが、この改正によりアスベストの施工状況を確認する範囲と責務が広がってきている。

 ※当社では多くの施設で、レベル2建材のアスベスト飛散し暴露する状況にあった事例を確認してきている。